背景

ミュージシャンが演奏の仕方を体で覚えるように、パイロットも VR フライトシミュレータで、体に覚えこませることで新たな認知技能を取得し、技術スキルを洗練しています。VR フライトシミュレータを使ったトレーニングには多々メリットがありますが、その中のひとつとして、トレーニング対象者のニーズに合わせて簡単にカスタマイズできるバーチャルシナリオを自由に選択できることがあげられます。極めて現実に近い仮想環境を構築できるため、パイロットのパフォーマンス向上に大きく貢献しています。

先進航空機や VR フライトシミュレータの製造や開発を手掛けるスロベニアの AFormX 社は、創造性や高い専門性が不可欠な航空機プロジェクトや VR プロジェクトで培った経験や知識を有するエンジニアやデザイナを多数かかえています。その彼らの実績は公にも認められ、2017 年には Golden National Innovation Award を、2018~2019 年には Royal Aeronautical Society General Aviation Design Challenge を受賞しています。

同社のベストセラーシミュレータが、X-ALPHA 200 とハンググライダ用の FlyZmaj です。X-ALPHA 200 は Pipistrel 社製航空機の Alpha Trainer や Virus 用のシミュレータで、世界各地のトレーニング施設で使用されています。

課題

同社は以前から VR シミュレータの開発・製造経験はありましたが、本物の曲技飛行機内部に設置するシミュレータは製作したことがありませんでした。飛行機の構造を変えることもできませんし、シミュレータのせいで飛行機が重くなることも許容されません。同社は、曲芸飛行パイロットでもありフライトインストラクタでもある Jago Stemberger 氏とともにプロジェクトを進めました。そしてまず、曲技飛行機の Ultimate 20-300S へのシミュレータの取付けに取り組みました。

フライトシミュレータを使ったトレーニングには、訓練時間を長くとれる、コストが安くすむ、実践でのミスを減らせる、といった多くのメリットがあります。Academy 4 (Sašo Knez 氏のフライトスクール) では、訓練生向けにシミュレータでの 4 時間のベーシックコースプログラムを組んでいます。「シミュレータコースを修了すれば、それまでフライト未経験の人でも飛べるようになります。これには驚きました」シミュレータトレーニングの効果について Stemberger 氏はこのように話します。フライトシミュレータでは実にレベルの高いトレーニング受けることができます。

1980 年代、Gordon Price 氏の手によって Ultimate 20-300S という複葉機がカナダで誕生しました。複葉機を好んだ同氏が、設計の基準点にピッツスペシャルを用いていたのはよく知られています。当時標準だったのがピッツスペシャルでしたが、Price 氏は自身で、80 年代の競技を独占していた単葉機に勝てる近代的な複葉機を設計できると考えていました。


「我々は VR の原理を深く理解しているからこそ、シミュレータと機体を融合し、21 世紀で初のシミュレータを作ろうというアイディアが生まれたのです」Sašo Knez 氏 (AFormX 社のオーナー兼 CEO)

Ultimate 20-300S は高度な曲芸飛行を意図して製作された飛行機です。ユニークなこの飛行機を飛ばすようになるのは非常にハードなものです。ですが同時に、飛ばせるようになれば非常に有用な経験にもなります。

「だからこそ Pipistrel 用のシミュレータの製作経験のある AFormX 社と、そして RLS と手を組んで、本物の曲技飛行機に座りながらシミュレーショントレーニングができ、そしてトレーニングの段階が終われば、同じ飛行機をそのまま飛ばせる、という唯一無二の経験ができるハイブリッドシミュレータの開発に取り組んだのです」(Stemberger 氏)同氏は、AFormX 社と RLS の協力を機に、訓練生のトレーニングプロセスを改善できると見込んでいました。

解決策

シミュレータにとって非常に重要なのが、訓練者がトレーニングに没入できる、リアルに近いバーチャル環境です。またそれに加えて、訓練者が起こしたアクションが、そのバーチャル環境にリアルタイムに反映されなければなりません。レバーやペダルの動作が、パイロット側によって実感できるよう正確かつ厳密である必要があります。「シミュレータでのフライト体験は、ユーザーが実際に飛んでいると思えるものでなければなりません。レバーやペダルの動きが、バーチャル空間に機体の動きとして厳密に反映されなければなりません」


Jago Stemberger 氏(曲技飛行パイロット/フライトインストラクタ)。アセンブリ時に、VR フライトシミュレータのデモをしている様子。


「シミュレータの使用感は重要です。VR ヘッドセットで、バーチャルフライトがリアルなものに感じられるような、高解像度の風景が見られる必要があります」Ines Repnik 氏 (開発エンジニア)

シミュレータには、位置情報を出力するために RLS 製の磁気式エンコーダが取り付けられています。それらのエンコーダによって、最も精密な絶対精度と繰り返し精度が求められる軸のロールとピッチが制御されています。AFormX 社は、Ultimate 20-300S 機のために、ヨー、ロール、ピッチそしてスロットル動作を制御できるセンサーを選定する必要がありました。そこで声がかかったのが RLS です。


RE22 磁気式ロータリシャフトエンコーダ

「センサーは、レバーやペダル、スロットルの機械的動作をコントローラ経由でコンピュータに信号で伝達して、機体制御用のフィードバックを出力します」(Nino Razpotnik 氏 (AFormX 社の開発エンジニア、このプロジェクトにおける電子部品に関しての責任者))AFormX 社では同様の用途にポテンショメータを採用していたこともありましたが、寿命が短いという欠点がありました。動きが激しいため、ポテンショメータでは役割が果たせず、正常に動くことがあまりありませんでした。綿密な調査の結果、AFormX 社がたどりついたのが RE22 エンコーダです。

RE22 は、過酷な環境向けに設計された、コンパクトな高速エンコーダです。マグネットが、検知部 (エンコーダ IC) から最適な距離でエンコーダハウジング内のシャフトに固定されているため、簡単に取り付けられます。受信した信号はエンコーダチップによって、最高分解能 13bit で高速処理されます。直径わずか 22mm のコンパクトさと高い耐環境性 (IP68) を備えており、さらに非接触設計のため、摩耗せず、極めて高い動作安定性を誇ります。

結果

RLS 製品の導入により、AFormX 社は、曲技飛行機に設置するハイブリッドシミュレータの開発に成功し、シミュレータラインナップの拡充に至りました。Ultimate 20-300S 用シミュレータなら、シミュレーションでも実践と同じコマンドとレバー操作で機体を操作できます。

Knez 氏は以下のように付け加えます。「今後も弊社のシミュレータには RLS 製センサーを引き続き採用し、RLS にはパートナーとして協力をお願いしていきます。世界中のお客様にシミュレータを納品している弊社としては、RLS 製センサーでしか得られない信頼性が不可欠です」


「我々がセンサーに求める最も重要な要素が、信頼性、精度そして堅牢性です」Nino Razpotnik 氏 (開発エンジニア)

 

AFormX 社について

AFormX 社はスロベニアで創業した、勢いにのるハイテク航空機企業です。試作品工場を持ち、そこでは超軽量航空機や航空機向け複合材料パーツの製造や組立てを主に行っています。精密機構システムや VR フライトシミュレータ、オンライン e ラーニングの開発も手掛けています。

AFormX 社の詳細については、www.aformx.si をご覧ください。

 

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